『たった4畳半のログハウスから?!』元気になるペシュヒストリー
ご存知でしょうか?パン工房ペシュの看板商品「ペシュまる」には、右のようなシールが貼られています。お母さんとふたりの女の子のイラストの入ったシール。ぜひ今度ペシュまるをお買い上げいただいたときに、ご覧ください。
わたくし野口と、ふたりの娘のイラストです。
パン工房ペシュが、どんな道のりをたどってきたか…。たとえ一人でも、お読みいただいたことが明日への生きる力になっていただけたら嬉しいです!
わたくしは、幼い娘たちを連れて夫から逃げるように別れました。
まるで生きた心地のしない結婚生活でしたので、開放された後は、親子揃って不安よりも夢の方が大きかったものです。
まだ甘え盛りの幼い子どもたちを育てながら、でも一家の主として家計を支えるには、事業主になるしかない!家でできる仕事を!と考えてパンの学校に通いました。
看板商品に親子のイラストのシールを貼ろう!
決して単純な思いつきではないんです。むしろ創業の時の覚悟を忘れないように、という意味が大きいんです。あの頃のわたくしに恥じない店でいられているだろうか?と。
「パン工房ペシュ」創業当時の従業員は3名。わたくしと当時小学校5年生の長女と小学校3年生の次女だけ。庭に建てたログハウスからパン工房ペシュは始まりました。
大切な娘たちに「お帰り」と言うために、自宅の庭でお店を始めました。
パン工房ペシュは、平成17年に埼玉県川口市の自宅庭で始まりました。
自己資金はないのに、自分の店を持ちたいという夢はまったく揺らぎませんでしたので、4畳半のログハウスを狭い庭に建てることにしました。商品棚を置いて、レジを置いたらぎゅうぎゅうです。
では、パンの製造はどこで行ったかというと、自宅のキッチンとリビングをつぶしてしまいました。そこにパンの機械を置いて焼きましたが、このパンの機械ももちろん中古です。本当にボロボロでした。また備品類は、ご主人が突然ガンでお亡くなりになって廃業されたパン屋さんから譲り受けました。
鍋や食パンの型はとてもとても錆びていました。チョコレートもたくさんたくさんへばりついていました。それを、長女と次女が学校からまっすぐ帰ってきては、小さな手を真っ黒にして一所懸命落としてくれました。なんと素晴らしい従業員たち!
この頃、忘れられない景色があります。改装中に、屋外に作っていたキッチンから美しい夕焼けを見ました。きらきらとゆらゆらと真っ赤に輝いて夕日が地平線に徐々に沈んでいきました。この時、わたくしはこの美しい夕日を、消そうとしても消えない明日への不安に落ち着け落ち着けと言い聞かせるように見送りました。
そうです!何があっても絶対にくじけることはできない!
母の胸中を知ってか知らずか、娘たちは楽しそうに笑いはしゃぎまわっていました。「このこたちのためにもやり遂げるんだ」。そう覚悟を決めました。…が現実は甘くはありませんでした。
晴れて迎えたオープン日!思わぬトラブルトラブルの連続。
新規オープンと言えば、お祝いの花などが並んでとても華やかなイメージがあるかもしれません。しかしパン工房ペシュのオープン直後は順風満帆とはまったく言えない、毎日が「事件」の連続でした。
なんとオープン2日目、突然オーブンから滝のように水が流れ出したのです。激しく蒸気が立ち上がり、家の中はサウナのような状態に。なんと弁が壊れてしまいました。
また、翌日には、電気パネルが火を噴きました。つなぎが甘かったため、漏電をしたのです。ブレーカーが落ちてしまいました。
信じられない事件の連続…当時は必死だったので、何が起こってもとにかく乗り越えねばならないと必死です。寝る暇はまったくありませんでしたが、不安ばかりが心をよぎりとても寝る気にはなれなかったというのが正直なところです。
やっと落ち着いたパン工房ペシュの1号店に、かつてない大問題が持ち上がります!というよりも、あまりに一所懸命でそこまで思いが至ってなかったのです。
なんと、「店の前はほとんど人が通らない」。つまり、お客様が来ないのでした。
自転車で営業まわりに奔走する日々、小さな右腕左腕も一緒です。
仕方がないと言えば仕方がないのですが、当時は店舗を借りるような資金はありませんでしたから、自宅の庭でやる以外なかったのですね。娘たちにも寂しい思いはさせたくはありませんでした。
しかし、そうも言っていられません。お客様が来なければ、商売は成り立ちません。
ということで、移動販売車を購入しました!もちろん中古です。パンを積んで、空いた時間は近所の工場や会社関係を営業して回りました。有能な従業員の娘たちも、手作りのチラシを描いてくれて、自転車のカゴに積んで近所にポスティングして回ってくれました。
その甲斐あって、徐々にですがログハウスを見つけて買いに来てくださるお客様が増えてきました!
ある日、問屋さんが「ちょうどいい物件がありますよ」と声をかけてくださいました。ふと気づけば、4畳半のログハウスでは少々手狭です。物件を借りるという選択肢が突如としてあらわれました。
必死に銀行を駆け回って融資のお願いをするも、相手にされず!
問屋さんの紹介してくれた物件は、板橋にありました。早速見学に行きました!パン屋さんの居抜き物件なので、改装も最小限で済みそうです。早速、仮契約を済ませました。今度はこの街にお店を出すんだ!と考えただけで、わくわくと胸が躍りました。
しかし先立つものがない!時間を作っては必死で銀行をまわり融資のお願いをしましたが、まだ駆け出しの、しかも自宅敷地内の小さなログハウスで細々と商売をしている女性に、なかなかいい返事はいただけないまま日々が過ぎていきました。
ちょっと話はそれますが、自分が女性であるということが、商売をやるうえでネックにならなかったといえばウソになります。残念ながら、男女平等とは程遠い信用…。
ただ、付け加えておきたいのですが、自分が女性であるということが、少なくとも「パン屋」という商売をやるうえでは、男性には真似できないプラスになった面も多いんだ!とわたくしは信じています。ですから、もし今お仕事で女性であることで苦労されている方がいたら、きっと苦労だけじゃないはずですよ!とエールを贈ります。元気をつけにペシュまるを食べにいらしてくださいませ♪
さて、話をもとに戻しましょう。融資は晴れて通りました!!…しかし!!仮契約の手付金を払えていなかったので、なんと皮肉にも融資の通った翌日に、お話はシャボン玉が消えるようにあっけなく消えてしまいました。
決めたことは叶える。叶うまで諦めない。出口が見えなくても前進する。
本当に残念でした。たった一日早く決まっていれば!ととても悔やみましたが、もう決まってしまったことは仕方がありません。
しかし、店舗を出すという考えはまったく揺らぎませんでした。むしろ出店が遅れたことで心の準備が整っていきました。
そうしてご縁があり、有名なパン屋さんがしのぎを削る「パンの街」つくばへ、移転することになったのです。本当に不思議なことですが、自宅庭の4畳半のログハウスを飛び出して、いきなり見知らぬ土地のしかも激戦区へ乗り込む。この時の成り行きは、今考えても実に不思議ですが、「急きょなぜかつくばへ」と表現する以外、うまい表現は思いつきません。
こうして契約からたった2か月で「パン工房ペシュつくば大穂店」はオープンしました。
ひとと一緒に働く難しさと、応援してくださるお客様のありがたさ。
「順風満帆に2号店出店!」と書けたら恰好いいのですが、まったくそんなことはありません。
まず、川口市からつくば市の距離ですから今までの常連さんも当然来られませんし、テナントは大通りにこそ面しているものの店舗自体は奥にあり、なかなかお客様に見つけてもらえませんでした。
さらに困ったことが従業員の定着です。今思うと、原因はわたくしのオーナーとしての未熟さ…。従業員が入っては辞め入っては辞めを繰り返していました。いつまでたってもわたくしの代わりに製造してくれ、わたくしが営業に回れるような体制が作れません。売り上げは当然伸び悩みました。
けれど、売り上げがないからと言ってテナント代は止まってはくれません。
見知らぬ土地で、かなり厳しい貧乏生活に追い込まれてしまいました。明日への不安と疲労から、本当はおしゃれをして楽しみたい年頃の娘たちに向かって、厳しい言葉を浴びせてしまう夜が増えました。精神的にも金銭的にも「もう限界だな…」と心のどこかで思いはじめました。
そんなある日、常連のお客様が両手いっぱいにうちで買ったパンを抱えて、わたくしに向かってこうおっしゃったのです。
「キミちゃん、わたしがいっぱい宣伝してきてあげるから大丈夫!!」
なんとわたくしの姿を見て察して、そんな形で励ましてくださったのです!
本来はわたくしが元気を届けるべきお客様に、逆に励ましていただいた。非常に情けなく、そして心底ありがたく、その夜は泣けて泣けて仕方がありませんでした。
好きだと言ってくれるお客様が一人でもいる限り、がむしゃらに頑張ろう!
気づけば認知度は徐々に高まり、製造・販売としっかりサポートしてくれるスタッフにも恵まれ、高校生になった娘たちも学校帰りにサポートしてくれるようになったので、営業回りや配達に出られるようになりました。おかげさまで、お昼時や夕方は店内が混雑するほど、常連のお客様がついてくださるようになっていました!
おかげさまで2号店出店。ますますお客様に喜んでもらえる店になりたい。
このようにまったく順風満帆ではありませんが、またもや不思議な出会いに恵まれて、平成23年に牛久市ひたち野うしくに2号店目を出させていただくことができました。創業当初はまだ小学生だった娘たちもすっかり大きくなり、変わらず有能な従業員のひとりとして店の運営を手伝ってくれています。
その日食べるものにも正直困った時もありました。しかしだからこそ、お買い上げいただくお客様のありがたみをひしひしと感じましたし、たくさんのお客様のお陰様でわたくしは今日生きていると感じることができます。
大切なお客様に喜んでいただけるようなパンを、「美味しい!」と思っていただけるようなパンを、焼き続けたいんです!
同時に、まだまだオーナーとして至らぬわたくしを支えてくれるスタッフの皆が、「パン工房ペシュで働くことが楽しい!」と思ってくれたなら、「毎日生きていることが楽しい!」と気づいてくれたなら、それがわたくしの喜びでもあります。
毎日「今日も生かせていただいている」と噛みしめながら、仕事をさせていただいています。ですから命ある限り、夢に向かって前進していきます。どうぞ、そんなわたくしの焼いたパン工房ペシュのパンを、召し上がってくださいませ!
パン工房ペシュ オーナー 野口貴美子